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Announcement: 告知 

APECプロセスを経てオーストラリアで薬剤師資格を取得され,
現在クイーンズランドの病院にてご活躍されているMoMoさんよるコラム掲載のお知らせ

このブログ上並びに個人的にも非常にお世話になっているMoMoさんに、
ゲストライターとしてコラムの掲載をお願いしていたのですが、
そのシリーズの第一弾として
「オーストラリアで薬剤師になるまでの道程」を
今後数週間に渡って毎週月曜日にこのブログ上に連載させていただく事になりました。

誰しもが経験する英語の壁や、今までの苦労の日々、
そしてAPEC試験の詳細から、晴れて合格するまでの道のりを描きます。 
また、今後APECを目指される方のために、
必要な参考書やリファレンスサイトなどの貴重な情報も満載です。

大変お忙しい中、ご執筆していただいているMoMoさんに、
この場を借りて心から御礼申しあげます。

それでは、来週から毎週月曜日をお楽しみに。


APECプロセス vs 大学での薬学コース:3

前回のエントリーの続きです。 

では一方APECプロセスはどうかというと、先ず第一にあげる問題は、勉強したくても、どうやって勉強したらいいかがわからないという点にあると思います。実は私の今働いている薬局にも、APECプロセスにアプライ中のフィリピンとブラジルの薬剤師がいます。彼女たちは英語に関してはほぼ問題なく、またこちらの薬局に働き出してもう一年近く経っているのですが、それでもどうやってAPECの試験対策の勉強するかまだ途方にくれている段階です。

APECプロセスはあくまでqualification までの試験のガイドラインであり、結局は全て独学で勉強する必要があります。特に、こちらの薬局のシステムや求められる知識は日本の薬剤師の国家試験とは全くと言っていいほど異なる為、口答試験も含め、今まで経験した事のない、見えないものに対して勉強するという難しさがあります。

専門用語の語彙力 に関しても、大学では毎日膨大な量の医療英語に接している為、嫌でも医療英語が自然と身についてきますが、APECプロセスで薬局にて働いているだけでは、疾病に関する専門的な単語力は相当な努力をしない限り身につきません。これは、普段患者さんと話しをするときは噛み砕いて、あえて専門用語を避けて話しをする事が多いためです。

またその他にもVIVA(口答試験)に関して、大学では毎学期のように口答試験があり、卒業までに何度もそれを経験し、VIVAで聞かれるポイントや、問題に対して回答を導くプロセスを習得できるのに対し、APECではプライベートでチューターを雇ったり、他の薬剤師や候補者と練習をしない限り、stage 2でのほぼ一発勝負となります。口答試験は経験した人でないとわからないプレッシャーと難しさがあり、またテクニック(プロセス)が要求される為、よほど練習して慣らしていないと、試験中パニックになります。

そしてこれは州によって違いがあるかもしれませんが、薬局等の職探しに関してもPharmacy Student のほうが通常よりも仕事が若干見つけやすいように思えます。


 私は以前たまたまWA州のAPECの理事の薬局で研修をした事があり、そのときにその理事と色んな話しをしたのですが、どうやらUK、カナダ、アメリカ以外からの薬剤師はAPECをストレートで受かる事のほうが少ないようですね。同じ英語圏でもシンガポール、インドや南アフリカから来た薬剤師はだいたい平均で1年半以上はかかっているようです。もちろんこれは人それぞれですが、オーストラリアと薬局のシステムが違う国から来た候補者にはやはり不利のようです。

しかし、こういった問題は時間はかかるかもしれませんが、こちらの薬局で働いているうちに序所に身についてきます。基本的にプライマリーケアのカウンセリングや処方箋の内容などVIVAの問題は普段の業務に密接に関係している事が多く、働きながら色んな事が学べます。またVIVAやその他の細かい法規に関しても、もし周囲が協力的な環境ならば色々と教えてくれると思います。そういった意味では、最終的にはAPECプロセスのほうが、資格取得までの期間とトータルの勉強量を考えると近道かもしれません。

ただし問題は、資格取得後も続きます。これは半ば私の想像の話しですが、例えAPECにストレートでそのまま受かったとしても、こちらで薬剤師として一人でやっていく自信はまだまだ持てないと思います。これは私の同僚でブラジルやフィリピンから来ている薬剤師と、またその他の同僚でマスター卒の薬学生と話をしていて思ったのですが、こちらでの薬学教育を受けているのと、受けていないのでは、知識力にかなり大きな差があります。実際に治療に対する細かい考え方や、医療制度、OTCやサプリメントなど、APECの試験だけではカバーしきれていない内容が山のようにあります。

特にこちらでは日本と違い、処方箋枚数に対して薬剤師の配置規制もなければ、通常二人で調剤内容をチェックし合う事もありません。ほとんどの薬局では薬剤師一人とアシスタント数名体制で業務を行い、資格をとってすぐに薬局を一人で任される事も珍しくありません。そういった誰も頼る人が周りにいない環境で、こちらでの薬学教育のバックグラウンドがなければ不安に感じる事が多いかも知れません。それに対して大学では細かな内容をきっちりと習得する為、しっかりとしたコンピテンシー(業務遂行能力)を身につける事ができます。 そういった意味からすると、APECに受かっても決して安泰ではなく、その後もそのギャップを埋め合わせる為の努力が必要になるかもしれません。もちろんこれは、薬剤師である以上、どちらの道で資格をとっても生涯教育は必要になりますが。。


以上、私が感じる薬剤師資格取得までの大学院とAPECプロセスの違いを思いつくままに書いたため、とりとめのない内容になりましたが、結局のところ広く深く学ぶか、狭く深く学ぶかの違いに集約されると思います。

簡単にまとめると、

大学院はいろんな内容を細かく学び、膨大な量の課題や試験をこなすので、在学中は大変でしかもかなり遠回りな道ですが、VIVAを受けるころにはこちらで薬剤師としてやっていける知識とコンピテンシー (能力)が備わっています。

APECでは試験で聞かれることを中心に、的を絞って勉強出来ますが、その的ややり方が果たして正しいのかどうか常に不安に悩まされながら勉強する為、一見効率的に見えても、実はかなり非効率な勉強を強いられます。特に自分が努力するベクトルがしっかりと見つかるまでは、精神的にかなり大変かもしれません。 


最後に、Kさんを含め、今後海外で薬剤師資格を目指される方のために、私の好きな言葉を二つ送らせていただき、このエントリーを締めくくりたいと思います。

The brick walls are there for a reason. The brick walls are not there to keep us out. The brick walls are there to give us a chance to show how badly we want something.
By Dr. Randy Pausch

Success is the ability to go from one failure to another with no loss of enthusiasm.
By Sir Winston Churchill

どちらの道を選ぶにしても本当に大変ですが、これは全て自分次第です。壁にぶち当たった時こそポジティブに考え、それを乗り越える努力をする事が、目標達成までの一番の近道ではないでしょうか。



APECプロセス vs 大学での薬学コース:2

本日は前回のKさんの質問を踏まえて、APECプロセスと薬学大学院の違いを私の経験をもとに書こうと思う。

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名前:K
タイトル:APEC
はじめまして、ナルキチさん。私は今年の4月からオーストラリアで..........

〜 中略(11月11日のエントリー参照) 〜

APECでの資格試験の道もあったと思いますが。どうして豪大学院を選択されたのですか??
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K さんへ

こんにちは、英語での苦労や仕事のポジション探しの大変さは私も痛いほどよく解ります。恐らく誰もが想像しているよりも実際は簡単ではありません。しかし、ネガティブになってはいけません。常にポジティブにチャレンジし続けると、おのずと道は開けます。

さて、返事が大変遅くなりましたが、上記の内容に答えさせていただきます。

私が薬学大学院を選択した第一の理由は、実はそもそもオーストラリアに来た理由が薬学のマスター取得と英語での職務経験を積む事にあり、こちらでの薬剤師資格の取得が直接の目的ではなかったからです。なので、今Kさんが置かれているシチュエーションには当てはまらないかもしれませんね。なので今回はそれを踏まえ、オーストラリアの薬剤師資格取得のためにこちらの薬学大学院を選ぶ道と、APECプロセスを選ぶ道のメリット・デメリットを私なりの観点で書かせていただきます。

まず、誰もが知りたいと思う事はどちらが近道で、どちらが大変かという事だと思いますが、結論から言うと、どちらも同様に本当に大変です。ただ違いは、大変さの質が違うと言う点だと思います。

まずは、こちらでの薬剤師資格取得までのstudy load (勉強量)を比べた場合APECよりも、こちらの大学院を卒業するほうが遥か数十倍のstudy loadになると思います。これは、薬学大学院の内容が全て薬剤師の資格試験に必要なpharmacy practice だけに焦点を当てている訳ではないからです。その他のVIVAに直接関係ない科目を多く専攻する必要があります。

具体的に私の話しを少しさせていただくと、私の行っているUWAでは約半年以上こちらの医学部に行き医学部の学生に混じってmicrobiology, immunology, pathology , infectious disease, やpharmacologyなどを履修します。この中で薬学的な科目はまだよかったのですが、それ以外の数科目は日本の薬剤師の国家試験を含め今まで受けた試験のなかで、もっともハードと感じた試験でした。(例えばPathology などの細胞の異常所見を診て病変を特定したり、Infectious diseaseなどで患者の症状、既往歴、レントゲンや臨床検査値異常から感染症を診断し、抗生物質を選択し投与量や投与期間を決めたり。。。)これは科目が難しい事もそうですが、英語のterminologyのなさが特にハンデになりました。 とにかく出てくる用語が細胞レベルの普段全く使う事のない医療英語の事が多く、試験期間の1週間で400語近いpathology の用語を泣きそうになりながら必死で覚えた辛い経験があります。

しかし残念ながら、こういった上記の事は一切VIVA(薬剤師資格の口答試験)には出てきませんし、この他にもVIVAに不要な科目の例を挙げたらきりがありません。労力と時間そして費用だけを見れば、薬剤師資格取得の為だけに大学院に行くのはかなり遠回りな道かもしれません。現に、以前カナダの薬剤師が1学期間UWAの大学院に在籍していましたが、彼女はあまりにもpharmacy practice以外の科目をやる必要があるため、すぐに辞めてしまいました。

しかし、こちらの薬学部に行く利点をあげるとすれば、こういった事が深いレベルで勉強できるまたとない機会になるという点です。薬剤師や医療に関するプロフェッショナルを考えた場合にはこれらの知識は決して無駄なものではありませんし、きっと将来こういった経験が役に立つ時がくると思います。

また英語という点を考えても、常に講義や課題、試験に追われるハードな日々が続く為、気づけばreading, writing, listening,やterminology が知らないうちに伸びていきます。また毎学期のように口答試験があるため、speaking も含めVIVAのテクニックも着実に身につきます。そして、なによりも大事なのは、そういった色んな事を勉強し乗り越えたという自信がつくという点です。なので大学院を卒業する頃には、こちらでやっていけるという自信がついていると思います。


では一方APECプロセスはどうかというと........ 次回に続く


APECプロセス vs 大学での薬学コース:1

本日はまだ返事ができていなかったVIC州のKさんの質問に対し、現在QLD州の病院で薬剤師としてご活躍されており、私も非常にお世話になっているMoMoさんからの返事をアップしたいと思います。 APECプロセスとオ−ストラリアでの薬学部もしくは薬学大学院のメリット・デメリットに関しては試験が片付き次第、後日私からも追記させていただきます。

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名前:K
タイトル:APEC

はじめまして、ナルキチさん。私は今年の4月からオーストラリアで薬剤師の免許を取得しようと考えGeelongという小さな町で暮らしています。
 岡山大学を卒業し、就職を考えましたが結局そのまま大学院に進学し、そのあと就職もせずに渡豪しました。今25歳です。なぜオーストラリアを選んだかというと。フィアンセがオーストラリア人だったというなんとも偶然なんですが。。。
 早速文化と言語のギャップで毎日惨めな気持ちに打ちひしがれています。

 最初は薬局アシスタントのバイトはできないかと、あとデスペンシングのバイトはないかと3ヶ月ぐらいCVとレジュメを持って薬局訪問をずっとしました。新聞の職安見たりなど。でもほんと馬鹿だったなあ。と今は思います。やっぱり、英語がだめだったというのと永住権がないのとで断られる一方でした。まあ、逆の立場になって考えれば、断られるのは当然だなって、今になってわかります。
 そこで永住権とって資格試験に合格するのが一番の近道だとおもい、APECのプログラムを選択しました。(私は家があまり裕福ではないし、奨学金の返済があるため豪大学院へ進学することは眼中になかったからです。)

 ナルキチさんの日記を読んで大学院生のナルキチさんですら(ちゃんとシステムなどを教えてもらっている状態で)こんなに大変な思いをされているのに何も知らない状態の私が1から独学(APECの手順道理やれば独学ではないのかもしれませんが、英語で医療の仕組みや薬学について議論できるレベルの友達がいないまたは、解説してくれる先生がいない状況)で乗り切れるのかと正直自分の選んだ道に疑問を持ってしまいました。

 今はIELTsでバンド7をとるために奮闘していますが。(というか丸暗記な生活です。)

 英語だけで毎日いっぱいいっぱいな感じです。(今は回りに日本人が誰もいない環境ですし屋でバイトしています。)

 APECでの資格試験の道もあったと思いますが。どうして豪大学院を選択されたのですか??よろしければご回答ください。

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名前: MoMo
タイトル: Kさんへ

はじめまして。
APECで豪州の薬剤師免許を取得したMoMoと申します。
現在クイーンズランド州で病院薬剤師をしています。

ナルキチさんは10月はお忙しかったとのことで、恐らくKさんの書き込みに気づいていらっしゃらないのではと思います。ですので代わりといっては何ですが、私の経験を述べさせていただくことで、何か参考になればと思います。

私の場合は、大学または大学院に進むのは学費と時間が掛かるため、APECのコースを選びました。既にオーストラリア人の配偶者として永住権は持っていたので、英語のコースから始め、最初の目標はOET(Occupational English Test)にパスすることでした。

政府の英語コースで中級クラスを修了した後、上級コースに通いながら、週に1回薬局アシスタントとしてワークエクスペリエンス(無給)を1年間やりましたが、英語の壁が厚く、正式に雇ってもらうには至りませんでした。

OETにパスする前後に大学の薬学部の3年次に聴講生として出席する傍ら、別の薬局で薬剤師見習いとして職を得ることが出来ました。そこでは上司に恵まれ、豪州の薬局のシステムや処方箋の入力の仕方、薬に関することなど、様々なことを学ぶことが出来ました。

そこで勤務している間に、APEC Stage 1に合格し、正式にPre-registoration Pharmacistとなることが出来ました。
しかしStage2の口答試験と実地試験はかなりの難関で、2度失敗し、3度目の挑戦でやっと薬剤師資格を取ることが出来ました。

政府の英語コースに入ったのが96年、薬剤師資格をやっと取ったのが04年の初めです。そのうち2年間は日本語を使う別の仕事をしていました。

私はかなり長くかかったほうですが、3年くらいで薬剤師免許取得までたどり着いた日本人の方もいます。そこにたどり着く期間は人それぞれだと思います。

今勤務している病院には、薬学生が研修でよく来ていますが、プレゼンやらレポートやらで、かなり勉強がきつそうです。彼らを見ていると、結果的に時間は長くかかりましたが、APECにしていて正解だったなと思います。大学に編入していたら、私の場合は恐らく卒業出来なかったのではと思います。

以上、長くなりましたが、ご参考になりましたでしょうか。
今後のKさんのご健闘をお祈りいたします。

MoMo



オーストラリアにおけるRetail Pharmacist の役割

今日はオーストラリアのリテール薬剤師の役割と社会的地位に関して、Bito さんの質問に答えながら私なりの意見をアップしたいと思います。

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名前:Bito
タイトル:“処方権”が無く“処方”?

初めまして。

日本の薬局でOTCと保険調剤に従事する薬剤師、Bitoです。

S3の販売(処方箋でない患者は毎回症状を聞いて色々話して商品を自分で決めなきゃいけない)について質問がございます。

医師と違ってprescriptive authority が無い薬剤師がprescribing (selecting the most appropriate medication for a given patient) S3ができるのは、どういう理由付けからなのでしょうか? 

日本の薬剤師に存在感が無く、地位が低いのは、この“prescribing ”で日本医師会から圧力を受け、つまずくためです。

例えば日本では“処方権”に法的定義はありませんが、豪州ではどうですか?
(自力では探せませんでした)

お忙しいところ誠に申し訳ございませんが、よろしくお願い致します。

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Bito さんこんにちは。

上記の質問の件ですが、どちらかと言うとS3はPharmacist Only medicineといって、処方箋が無くても薬剤師に相談すれば、カウンター越しに買う事が出来る薬を差します。なのでこれは実際には処方行為には当たりません。 ちなみにS4はPrescription Only medicineといって医師、歯科医師、または獣医の処方箋がないと出す事の出来ない薬となっています。

ただ、これらに関して日本と大きく違うのはこの処方薬と、OTCの線引きです。オーストラリアでは(他の海外も含め)日本よりも処方箋がなくてもOTC(カウンター越し)で販売できる薬の範囲が広いと思います。ただし逆に患者さんが実際に自分で手にとって選べる薬の範囲は非常に限られています。 日本のOTC薬局だと恐らくOTC薬の95%以上は、患者さんが勝手に薬を自分の手に取って、自分で判断して薬を買う事がでると思います。つまり、先ず薬に対す管理体制が日本とオーストラリアでは大きく異なります。言い換えると、薬剤師の干渉がなければ薬が買えない制度となっているわけです。

また私が思うに日本とオーストラリアのリテール薬剤師のはっきりとした違いは職域にあると思います。オーストラリアではほぼ全ての薬局がOTCと調剤が併設されており、薬剤師は処方薬はもとより、とりわけプライマリーケアに関する重要な役割を果たしています。具体的にどういう事かというと、オーストラリアでは医療制度上、患者さんが気軽にドクターの会う事は緊急な場合を除いて難しく、通常は前もって予約する事が必要となります(オーストラリアの薬事制度のエントリー参照)。なので、何か体に問題があったら、病院ではなく、先ずは薬局に相談に来ます。そして、その症状を聞き薬局の薬で治療するのか、それともDrにreferするのかを判断するのが薬剤師の重要な役割となっています。  
また、医師や病院の負担を軽減する為や、患者の緊急なニーズに対応する為に薬剤師に販売が許されて薬もあります。(例えば緊急経口避妊薬など)

このような背景から、オーストラリアの薬学教育においては、薬理学や製剤、調剤学は必要最低限度に留め、もっと実践的なカウンセリングや色んな疾病のRed flag (危険なサイン)、プライマリーケア、薬物相互作用(OTCやハーブ系のサプリメントを含む)をしつこいくらい徹底的にやります。 

日本の薬学教育では6年生になってからどういう具合に変わったかは存知ませんが、私の記憶ではかなり深いレベルの薬理や有機化学、実務においてほとんど不必要な公衆衛生などをやっても、こういった実践的な事はほとんどカリキュラムに無かったと思います。 また、日本の薬事制度も昨今の規制緩和で薬剤師がいなくても販売責任者を置けば薬が販売できるようになり、ますます薬剤師のプライマリーケアに関する職域が狭くなっていると思います。

私は日本の薬剤師の地位が海外諸国に比べて低いのは、処方権がないせいだとは思いませんが、明らかに言えることは制度の違いと、自分達の職域に関するプライドと危機感がない事にあると思います。以前この規制緩和の事を私の同僚のオーストラリア人に話したら、とても信じられないといった表情をしていました。オーストラリアで同じ事が起こったら薬剤師が一丸となってロビー活動を通じて必ず阻止するでしょう。

話しが少しそれますが、実はオーストラリアでもこの薬のderegulation(規制緩和)に関しては時折問題となっています。少量包装のアセトアミノフェンやイブプロフェンなどは既にオーストラリアのスーパーでも買えるようになっていますし、副作用がほとんど問題にならないような薬は徐々に規制緩和の対象になってきています。しかし日本との大きな違いはこの事に対して薬剤師が非常に危機感を持って仕事にあたっている事です。自分たちが薬剤師としての責任を果たさないと、薬が取られていく。なので、普通のイブプロフェンなどの鎮痛剤を販売する時でも質問をせずに販売する事はほとんどありません。誰が何に使うのか、他の併用薬やコンディションは無いかなど、必要最低限の事は必ず尋ね、問題があるようなら更に深く尋ねます。(これは私の実感ですが、たとえイブプロフェンのような簡単なNSAIDSでも尋ねていくうちに胃潰瘍や喘息、または低用量アスピリン服用中など、禁忌や避けたほうがいい患者さんが案外多いものです。)また、こういったpracticeがきちんと普段からなされているかをチェックする為にQCPP (Quality Care Pharmacy Program)の監査員が抜き打ちで薬局を訪れ、普通の患者になりすましてOTC薬を購入する事もあります。この際の会話は全てテープに録音され、きちんとそういった質問をしているかどうか後日審査されます。

上記はその一例ですが、このようにオーストラリアでは個々の薬剤師や薬剤師会が主体となって薬のプロとしての意識やサービスの質を高めている事が、薬剤師の今日の社会的地位を築いているのだと思います。

以上、S3に関する職域と、薬剤師の地位に関して、私なりの考えを書かせていただきましたが、ご参考になれば幸いです。


ナルキチ


   
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